星の王子さま、死なせない 渡辺えり版人形劇「結城座」が上演 10月にシアタートラムで

09-19 admin

「星の王子さま」に登場する人形を手にする渡辺えり(左)と十三代目結城孫三郎 (水沼啓子撮影)

380年以上の歴史を有する江戸糸あやつり人形劇団「結城座」が10月3~6日、東京・世田谷のシアタートラムで渡辺えり版「星の王子さま」を上演する。フランスの作家、サン=テグジュペリ(1900~44年)の原作小説「星の王子さま」の世界観や物語の本質を捉えながら、劇作家・演出家としても活躍する俳優の渡辺えり(69)が独自の視点で作・演出を手掛ける。渡辺が作品について語った。(水沼啓子、写真も)

渡辺と結城座がタッグを組むのは「森の中の海」(平成19年)、「オールドリフレイン」(26年)に続いて3回目。人形劇を手掛けることについて、自身が座長を務めていた「劇団3〇〇(さんじゅうまる)」(9年に解散)で自身が作・演出してきた芝居の手法と「重なるので、違和感はない」と話す。

「『3〇〇』ではシュールで割と形而上学的な要素を取り入れた舞台を作ってきた。私の中では一般的な商業演劇よりも、人形劇のほうが自分の芝居に近い。人形が人間を演じること自体シュール」という。

渡辺は、NHKで放送されていた「ブーフーウー」「ひょっこりひょうたん島」といった人形劇で育った世代。「子供たちは皆、人形が大好き。私も小さいときから人形劇は好きで、子供のころはよく見ていた」と振り返る。

一方、「星の王子さま」に出合ったのは高校時代。「最後に星の王子が死ぬのが本当に嫌で嫌で、なぜ皆好きなんだろうと思った」。さらに「『人魚姫』や『よだかの星』のように主人公が死んでしまったり、『幸福な王子』や『鶴の恩返し』のように報われなかったり、嫌いな話が多過ぎる」と、童話全般には否定的だ。

結城座から今回依頼を受けたときも一瞬、複雑な思いがよぎったという。ただ、「この機会にもう一度しっかりと原作を読んで、自分なりの『星の王子さま』を見つけようと思い、引き受けた」と明かす。

「なぜ星の王子は死ぬのか、その謎を解こうと、膨大な関連資料を読み込んで今回、脚本を書いた。自分としては、絶対に星の王子を死なせたくなかったので、書き換えて生かす話にした」

渡辺えり版は、現代日本の3人の女子中学生がサン=テグジュペリや星の王子らと出会い、舞台は砂漠からブエノスアイレス、そして戦時下の日本、アルゼンチンの〝涙の海〟へ目まぐるしく展開する。

渡辺えり版「星の王子さま」冒頭の場面を稽古する出演者たち (水沼啓子撮影)

劇中、原作の一部が朗読される以外は基本的にオリジナル・ストーリーで、原作にはないキャラクターが数多く登場する。

さらに人形だけではなく、サン=テグジュペリの役などを生身の役者が演じている。また、舞台では現代音楽に加え、浄瑠璃「新内節」も流れる。

「日本の中学生や新内節という伝統音楽を出したのは、遠い外国の話ではなく、日本でも起こり得る話だということを表すため」という。

「星の王子さま」は、サン=テグジュペリがドイツ軍占領下にあったフランスから亡命した先の米国で、1943年に出版された。渡辺が本作に込めた思いは「反戦。子供たちにぜひ見てほしい。戦争の恐ろしさ、理不尽さというものを、この人形劇を通して感覚で知ってほしい」。

星の王子役の十三代目結城孫三郎(45)は、「コメディー的な場面や、シリアスな場面などいろいろあって、最後はちょっとしんみりする。笑ったり、泣いたり、楽しんでいただける作品なので、ぜひ多くの方に味わってもらいたい」と紹介した。

問い合わせは、結城座(042・322・9750)。(水沼啓子)

結城座

寛永12(1635)年に初代結城孫三郎が旗揚げ。国記録選択無形民俗文化財、東京都の無形文化財に指定。江戸時代は浄瑠璃に合わせて人形を操っていたが、明治以降は人形遣いがせりふを語るようになった。

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