自転車ヘルメット着用率5.5%、全国最悪の大阪 事故遺族が動画で訴える「命の価値」

09-19 admin

息子の大地さんを自転車乗車中の事故で亡くし、ヘルメットの大切さについて語る渡辺明弘さん(大阪府警交通部のユーチューブ公式チャンネルから)

昨年の交通事故死者数が2年連続で全国最多の148人に上った大阪府は、自転車関連事故の死者も37人と全国ワーストだ。昨年4月には自転車のヘルメット着用が努力義務化されたが、今年7月に調査した着用率も、全国平均(17・0%)を大幅に下回る5・5%でワーストだった。危機感を募らせた大阪府警は、自転車事故の遺族らにヘルメットの大切さなどを語ってもらう動画を作成。長らく「最悪」と指摘されてきた大阪の自転車マナー向上を目指す。

「大人が正しいやり方見せて」

「妻が最初から慌てていたので、これは事故かなとすぐに分かった」

平成26年12月、高校1年の長男、大地さん=当時(15)=をトラックとの事故で亡くした渡辺明弘さん(55)=愛媛県=は、動画の中でこう振り返る。仕事中にかかってきた妻からの電話で知らされた愛息の事故。自転車で学校から帰る途中だった大地さんは、ヘルメットを着用していなかったという。

高校入学前に通学用の自転車を購入した際、大地さんは店でヘルメットを試着し、鏡を見ながら「これかっこいい」と言っていた。だが、着用が浸透していなかった当時、明弘さんは1万円以上するヘルメットを見て高いと感じた。「あの時、『ヘルメットも欲しいんだったら買おうか』と言って買っていたら、今どうなっていたんだろうか」。明弘さんはかみしめるように話す。

大地さんの事故がきっかけの一つとなり、愛媛県では翌27年、高校生の自転車通学時のヘルメット着用が義務化された。危険なのは大人が運転する車で、子供に強制するのはおかしい-。明弘さんは当初、義務化には反対していたが、ヘルメットで命が助かった事故の実例を聞くにつれ、その考えが大きく変わった。

ヘルメットが高額に思う人もいるかもしれないが、明弘さんは子供の命と比べれば安いと強調する。「子供の価値とヘルメットの価値のどちらが重いか、自分に聞いてみてほしい」。大人がヘルメットをかぶって自転車に乗ることで、「子供たちに正しいやり方を見せることができる」とも訴えた。

「救える命を救うには」

大阪人の自転車マナーの悪さは全国的に知られており、事故の多発との関連性もかねて指摘されている。府警によると、府内で今年1~7月に交通事故で死亡した68人のうち、自転車乗車中は17人。実に25%を占め、全国平均の約12%と比べると大阪の高さが際立つ。

府警によると、自転車事故で死亡した人の中には、ヘルメットを着用していたら命を落とすことがなかったとみられる人もいる。府警交通総務課自転車対策室の畑英行室長は「救える命を救いたいと、どう訴えればよいか考えた」。その真剣な思いが、啓発動画の作成につながった。

企画は5月ごろから始動し、自転車事故で子供を亡くした渡辺さんら遺族2人と、高知県で子供が一時重体となった家族の計3組にインタビューを実施。約4カ月がかりで、ヘルメットの大切さを切実に訴える約1時間の動画が完成した。

完成した自転車ヘルメット着用を呼びかける啓発動画を視聴する大阪府警の警察官ら=9月3日、大阪市中央区

府警交通部の公式ユーチューブチャンネルで9月3日から公開を始めた。公開に合わせ、府警本部で開かれた上映会では、警察官ら約200人が完成した動画を視聴。岩下剛本部長は「動画をしっかりと見て命の大切さを知り、ヘルメットがいかに重要か再認識してほしい」と訓示した。

啓発動画のDVD約1200枚も作製し、府内の全警察署や行政、教育機関に配布し、講習や安全教室で活用してもらう計画だ。さらに、府内の全高校にも配布する予定で、畑室長は「遺族らの切実な願いや叫びを動画で知り、『交通ルールを守る』『ヘルメットをかぶる』といった行動変容につなげてほしい」と話した。(前原彩希)

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。

最新の

©著作権 2009-2023ジャパンタイムズ      お問い合わせください   SiteMap